「値上げできない」から抜け出す。製造業が見直したい「儲かる仕事・儲からない仕事」
「仕事はあるのに、思ったほど利益が残らない」
「長年取引している顧客だから、値上げをお願いしにくい」
「忙しく働いているのに、利益が増えている実感がない」
製造業の経営において、このような悩みはないでしょうか。
原材料費や人件費、エネルギー費などの上昇が続くなか、販売価格を引き上げることは重要です。しかし、すべての取引先に値上げを受け入れてもらえるとは限りません。
だからこそ、価格交渉と並行して取り組みたいのが、自社の仕事ごとの採算を把握することです。
売上が大きい仕事が、必ずしも利益を生み出しているとは限りません。反対に、売上規模は小さくても、効率よく利益を確保できている仕事もあります。
今回は、製造業が「儲かる仕事・儲からない仕事」を見極め、利益を確保するために見直したいポイントを解説します。
1.売上がある仕事ほど、利益が出ているとは限らない
受注が増え、工場が忙しく稼働していると、会社の業績も順調に伸びているように感じるかもしれません。
しかし、売上の増加と利益の増加は、必ずしも一致しません。
例えば、次のような2つの受注があるとします。
<Aの仕事>
売上:100万円
材料費・外注費:60万円
差額:40万円
<Bの仕事>
売上:60万円
材料費・外注費:25万円
差額:35万円
この段階では、Aの仕事のほうが差額は大きくなっています。
しかし、Aの仕事に多くの加工時間や段取り時間が必要で、Bの仕事は短時間で効率よく製造できるとしたら、どうでしょうか。
人件費や設備の稼働時間なども考慮すると、Bの仕事のほうが効率よく利益を生み出している可能性があります。
もちろん、実際の採算は製造経費や間接費の配賦方法などによっても変わります。重要なのは、売上高や材料費だけで判断せず、その仕事にどれだけの費用と時間がかかっているのかを確認することです。
2.まずは製品別・顧客別の採算を把握する
仕事ごとの利益を見極めるためには、原価の把握が欠かせません。
製造業では、製品をつくるために、さまざまな費用が発生します。
- 材料費や部品の購入費
- 製造にかかる人件費
- 外注加工費
- 電気代や燃料費
- 設備の減価償却費や修繕費
- 工場の維持管理費など
これらを可能な範囲で製品別・受注別に整理することで、どの仕事にどれだけのコストがかかっているのかが見えやすくなります。
また、同じ製品でも、顧客や受注条件によって採算が変わる場合があります。
例えば、少量多品種の受注では、製品そのものの加工費だけでなく、頻繁な段取り替えや個別対応、短納期への対応などに時間がかかることがあります。
そのため、製品別の原価だけでなく、顧客別・受注別の収支も確認できると、より実態に近い判断につながります。
最初から完璧な原価計算の仕組みを構築する必要はありません。まずは主力製品や受注件数の多い顧客など、優先順位をつけて把握することから始めてみましょう。
2026年版中小企業白書でも、原価管理を詳細に行う事業者ほど、価格転嫁が進んでいる傾向が示されています。原価を把握することは、価格交渉の根拠を整えるうえでも重要です。
3.「儲からない仕事」が見つかったら、すぐに断るべきなのか?
採算を分析した結果、利益が少ない仕事や、場合によっては赤字になっている仕事が見つかることもあるでしょう。
では、その仕事はすぐにやめるべきなのでしょうか。
必ずしもそうとは限りません。
例えば、採算が低くても、将来の大口受注につながる可能性がある仕事や、主力製品と一緒に受注することで取引全体の価値が高まる仕事もあります。
一方で、長年続けているという理由だけで、採算を確認しないまま受注を続けているケースには注意が必要です。
見直す際には、次のような点を確認してみましょう。
- 現在の販売価格は、実際の原価に見合っているか
- 加工時間や段取り時間を短縮できないか
- 材料のロスや不良品を減らせないか
- 受注条件や納期、ロット数を調整できないか
- 価格交渉によって採算を改善できないか
- 今後の取引や他の製品への波及効果があるか
大切なのは、仕事を単純に「続ける・やめる」で判断しないことです。
価格、製造工程、受注条件、今後の取引価値などを整理し、改善できる余地がないかを検討することが重要です。
4.値上げ交渉にも、採算の見える化が役立つ
取引先に値上げをお願いするとき、「原材料費や人件費が上がっているため、価格を見直してほしい」と伝えるだけでは、十分な理解を得られない場合があります。
その際に役立つのが、原価の変化を具体的な数字で示すことです。
例えば、材料費がどれだけ上がったのか、製造に必要な作業時間や人件費がどのように変化したのかを整理することで、価格を見直す必要性を説明しやすくなります。
さらに、製品別・受注別の採算を把握していれば、どの製品で価格の見直しが必要なのか、どの取引条件を改善したいのかも明確になります。
中小企業庁の2026年版中小企業白書では、原価管理を詳細に行う事業者ほど価格転嫁が進んでいる傾向が示されています。これは調査上の傾向であり、原価管理だけで価格転嫁が必ず成功するという意味ではありません。しかし、自社のコスト構造を把握し、根拠を持って交渉に臨むことは、価格を見直すための重要な準備になります。
ただし、原価を把握したからといって、必ず値上げが認められるわけではありません。取引先との関係や市場環境も踏まえながら、価格交渉と社内の改善を並行して進めることが大切です。
5.利益を圧迫している原因は、製造現場にあるかもしれない
採算を分析すると、価格だけでなく、製造工程に改善の余地があることも見えてきます。
例えば、次のような状況はないでしょうか。
- 段取り替えに想定以上の時間がかかっている
- 材料の端材や不良品が多く発生している
- 作業者によって加工時間に大きな差がある
- 設備の停止や待ち時間が頻繁に発生している
- 手作業での転記や確認作業に時間を取られている
こうした問題を放置すると、製造に必要な時間やコストが増え、利益を圧迫する要因になります。
一つひとつは小さな問題に見えても、日々の業務で積み重なれば、経営への影響は小さくありません。
まずは、採算が低い製品や受注について、どの工程に時間やコストがかかっているのかを確認してみましょう。
原因が分かれば、作業手順の見直し、材料ロスの削減、設備の稼働改善など、具体的な対策を検討できます。
6.採算の分析を、設備投資や経営判断につなげる
仕事ごとの採算を把握する目的は、数字を集計することだけではありません。
分析結果を、今後の経営判断に活用することが重要です。
例えば、特定の製品で加工時間が長く、採算が低くなっている場合、設備の更新や工程の自動化によって改善できる可能性があります。
ただし、設備を導入すれば必ず利益が増えるわけではありません。導入費用や維持費、稼働率、需要の見通しなども考慮し、投資によってどの程度の改善が見込めるのかを検討する必要があります。
また、採算の高い製品に生産能力を振り向ける、受注条件を見直す、価格交渉を優先するなど、設備投資以外にも選択肢はあります。
こうした判断を行うためにも、売上高だけでなく、製品別・顧客別の採算や製造にかかる時間を把握しておくことが大切です。
そして、対策を実行した後は、実際に原価や利益が改善したのかを確認しましょう。分析と改善を繰り返すことで、経営判断の精度を高めていくことができます。
7.自社の「儲かる仕事・儲からない仕事」を見極めるためのチェックリスト
最後に、自社の状況を振り返るためのポイントを整理します。
- 製品別・受注別に、材料費や加工費などを把握できているか
- 顧客ごとの売上だけでなく、採算も確認しているか
- 段取り時間や不良品、材料ロスなども考慮しているか
- 採算が低い仕事について、価格・工程・受注条件を見直しているか
- 原価の変化を、値上げ交渉の根拠として活用できているか
- 設備投資や生産体制の見直しを、採算データに基づいて検討しているか
- 改善策を実行した後、実際の効果を確認しているか
すべてを一度に実施する必要はありません。まずは主力製品や主要な取引先など、身近なところから採算を確認することが第一歩です。
まとめ|値上げだけに頼らず、利益を生み出す仕組みを考える
値上げが難しいからといって、利益の確保を諦める必要はありません。
自社の仕事ごとの採算を把握すれば、価格を見直すべき仕事、工程を改善すべき仕事、今後さらに伸ばしていきたい仕事が見えてくる可能性があります。
大切なのは、忙しさや売上規模だけで仕事を評価するのではなく、どのように利益が生まれているのかを把握することです。
そして、その結果を価格交渉や業務改善、設備投資、受注方針の見直しなどにつなげていくことが、持続的な経営基盤づくりにつながります。
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飯塚甲生 <26年の実績 × 中小企業診断士の専門知識>
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