「最低賃金が上がるから人件費が増える」だけで終わらせない。中小企業が考えたいこと

「また最低賃金が上がるのか」
「人件費が増えると、利益がさらに減ってしまう」
「これ以上の賃上げは、会社として厳しい……」

最低賃金の引き上げを前に、そんな不安を感じている経営者もいるのではないでしょうか。

2026年度の地域別最低賃金は、全国的に大きく引き上げられることになりました。静岡県では、2026年10月15日から最低賃金が現在の1,097円から1,154円へ引き上げられます。もちろん、最低賃金の引き上げは、従業員を雇用する企業にとって人件費に影響する重要な変化です。ただ、ここで考えたいのは、「人件費が増えるから、どう削るか」だけではありません。

むしろ、「これから上がっていく人件費に対して、今の会社の仕事の進め方や利益の出し方は合っているのか」を見直す機会として捉えることもできます。

■ 最低賃金の引き上げは、「人件費」だけの問題ではない

最低賃金が上がれば、当然ながら人件費への影響が生じます。しかし、会社の利益を考えるとき、人件費だけを切り取って考えると、本質を見失ってしまうことがあります。

例えば製造業なら、

  • 同じ作業に以前より時間がかかっている
  • ベテラン社員がデータ入力などに時間を使っている
  • 紙の資料を見ながら別のシステムへ転記している
  • 工具や材料を探す時間が多い
  • 毎回ゼロから見積書を作成している
  • 利益率の低い仕事に多くの人手を取られている
  • 「昔からやっている」という理由だけで続いている作業がある

といったことはないでしょうか。

一つひとつは小さな問題に見えても、年間を通して考えると、かなりの時間を使っているケースがあります。

つまり、「人件費が上がる」ことだけを見るのではなく、「人が何に時間を使っているのか」を見る。これも、これからの経営には重要な視点です。

前回の記事「人を増やす前に、減らせる仕事はありませんか?」でも、まず現在の仕事を見直し、やめられる仕事、減らせる仕事、自動化できる仕事を考えることについて紹介しました。

最低賃金の引き上げも、こうした業務の見直しを始めるきっかけの一つとして考えることができます。

■ 「人件費を削る」より、「人が生み出す価値」を考える

人件費が上がったとき、最初に「どうコストを削るか」と考えるのは自然なことです。

しかし、中小企業白書でも、持続的な賃上げや人手不足への対応には、付加価値を高めることと、労働投入量を最適化することの両面が重要だとされています。

ここでいう「労働投入量」とは、簡単にいえば、会社が仕事に投入している人の時間や労力のことです。

例えば、

同じ人数で、より多くの価値を生み出す。

あるいは、

同じ仕事を、より少ない時間でできるようにする。

さらに、

人を、より利益につながる仕事へ振り向ける。

という考え方です。

これは単純に「従業員を減らす」という話ではありません。むしろ、限られた人材をどこに配置すれば、会社としてより大きな価値を生み出せるのかを考えることです。

■ まず確認したいのは、「人が何をしているか」

では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。

まずは、従業員一人ひとりが、日々どのような仕事に時間を使っているのかを確認してみることです。

例えば、

「この作業には毎日どのくらい時間を使っている?」

「この入力作業は、本当に二重に行う必要がある?」

「この確認は、毎回人がやらなければならない?」

「この資料は、そもそも誰が何のために使っている?」

「この工程は、設備やITを使えば短縮できない?」

といった具合です。

特に注意したいのが、「忙しい仕事」と「利益を生み出している仕事」は、必ずしも同じではないということです。

忙しいけれど、売上にも利益にもほとんどつながっていない仕事があれば、そこには改善の余地があります。

逆に、時間をかけることで品質が上がったり、顧客からの評価につながったり、より高い価格で受注できたりする仕事もあります。

大切なのは、すべての仕事を効率化することではありません。

「残すべき仕事」と「減らせる仕事」を分けることです。

■ それでも人手が必要なら、「設備投資」という選択肢

仕事を見直しても、どうしても人手が必要な工程はあります。

その場合には、設備やITを活用して、人の負担を減らす方法も考えられます。

例えば、

  • 加工工程の自動化
  • 検査工程の効率化
  • 在庫管理システムの導入
  • 見積・受発注業務のデジタル化
  • 生産状況の見える化
  • 定型的な事務作業の自動化

などです。

ただし、ここでも注意したいのが、

「補助金が使えるから設備を買う」

という順番にしないことです。

先に考えるべきなのは、

「現在、何が経営上の負担になっているのか」

「どの仕事に時間がかかっているのか」

「設備を入れることで、どの部分が変わるのか」

「投資した金額に対して、どの程度の効果が期待できるのか」

ということです。

そのうえで、利用できる補助金や助成金がないかを確認します。

2026年度の業務改善助成金も、生産性向上につながる設備投資等を行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる場合に、その費用の一部を助成する制度です。

つまり、「賃金を上げること」と「生産性を高めるための投資」を組み合わせて考える仕組みも用意されています。

■ 「値上げ」という選択肢も忘れない

もう一つ考えたいのが、価格です。

人件費だけでなく、原材料費、電気代、物流費、外注費、設備の維持費など、企業を取り巻くコストはさまざまです。

それらが上昇しているにもかかわらず、販売価格を長年変えていないのであれば、

「今の価格で、本当に適正な利益を確保できているのか」

を一度確認する必要があります。

もちろん、「人件費が上がったから値上げすればいい」と単純に判断できるものではありません。

顧客との関係や競合状況、製品・サービスの付加価値、原価構造などを踏まえて、どこまで価格に反映できるのかを検討する必要があります。

それでも、価格を据え置いたまま、人件費やその他のコストだけを会社が負担し続けることが、長期的に可能なのか。

この点は、一度立ち止まって考えてみる価値があります。

■ 最低賃金の引き上げを「会社を見直すきっかけ」に

最低賃金の引き上げは、単純に「人件費が増える」という出来事だけではありません。

これからの会社に必要なのは、

「上がった人件費をどう吸収するか」

だけではなく、

「これからの人件費を支払えるだけの利益を、どう生み出していくか」

という視点です。

そのためにも、まずは次のようなことを確認してみてはいかがでしょうか。

最低賃金の引き上げを機に確認したい5つのこと

01|人は、どの仕事に時間を使っているか

日々の業務を洗い出し、時間のかかっている仕事を確認する。

02|やめられる・減らせる仕事はないか

「昔から続いている」だけの業務や、重複している作業を見直す。

03|設備やITで省力化できる仕事はないか

人にしかできない仕事と、機械やシステムに任せられる仕事を分ける。

04|利益率の低い仕事が増えていないか

売上だけではなく、かかっている時間やコストまで含めて仕事を見直す。

05|適正な価格で提供できているか

人件費やその他のコストを踏まえ、現在の価格設定が適切かを確認する。

こうして見ると、最低賃金の引き上げは、単なる「人件費の問題」ではありません。

仕事の進め方、設備投資、価格設定、利益構造など、会社全体を見直すきっかけにもなります。

■ 「人件費が上がるから、どうするか」ではなく…

最低賃金が上がる。

人件費も上がる。

だから、すぐに「人を減らす」「採用を止める」と考える必要はありません。

まずは、

今の会社では、人がどんな仕事に時間を使っているのか。

その仕事は、本当に必要なのか。

もっと効率よくできないのか。

設備やITへの投資によって、人がより価値の高い仕事に集中できないか。

そして、今の価格で十分な利益を確保できているのか。

こうしたことを一つずつ整理していくことが重要です。

最低賃金の引き上げを、単なる「コスト増」として受け止めるのではなく、これからも利益を生み続けられる会社にするための見直しのタイミングとして捉えてみてはいかがでしょうか。

クレッシェンドアソシエイツでは、人手不足や人件費の上昇といった目の前の課題だけでなく、業務の見直し、設備投資、価格、利益、資金繰りなどを含め、会社全体の状況を整理しながら、実行すべき取り組みを一緒に検討します。

「人件費が上がる。では、会社のどこを変えるべきなのか」

そんな段階からでも、ご相談いただけます。

人手不足や賃上げをきっかけに、会社の仕事と収益構造を見直してみませんか。

飯塚甲生 <26年の実績 × 中小企業診断士の専門知識>

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