値上げしたのに、なぜ利益が残らない? 中小企業が見直したい「適正価格」

「取引先にお願いして、販売価格を上げてもらった」

「それなのに、思ったほど利益が増えていない」

そんな経験はないでしょうか。

原材料費や人件費、電気代、物流費などが上昇する中、中小企業にとって価格転嫁は重要な経営課題になっています。

実際、中小企業庁が2026年6月に公表した調査では、2026年3月時点の価格転嫁率は54.2%でした。コスト上昇分のすべてを販売価格に反映できているわけではなく、労務費の転嫁率も50.0%にとどまっています。この調査結果からも、価格転嫁が引き続き重要な課題であることが分かります。

前回の記事「価格転嫁したいのに、言い出せない。中小企業が知っておきたい『取適法』」では、価格について適切に協議できる環境や、取引適正化のルールについて紹介しました。

しかし、価格交渉ができたとしても、それだけで会社の利益が十分に確保できるとは限りません。

大切なのは、単に値上げすることではなく、自社のコストや提供する価値を踏まえ、利益を確保できる価格を設定することです。

今回は、値上げしても利益が残らない理由と、中小企業が見直したい「適正価格」について考えます。

1.値上げしても、利益が増えるとは限らない

例えば、ある製造業の会社が、製品の販売価格を見直したとします。

以前は1個1,000円で販売していた製品を、原材料費などの上昇を受けて1,100円に値上げしました。

一見すると、1個あたり100円の売上増です。

しかし、その間に原材料費や外注費、人件費なども上昇していたらどうでしょうか。

価格を100円上げても、コストがそれ以上に増えていれば、利益は増えません。

また、製品をつくるために必要な作業時間が長くなっていたり、設備の維持費が増えていたりする場合も、利益を圧迫する要因になります。

つまり、

販売価格が上がったことと、利益が増えたことは同じではありません。

売上高だけを見ていると、こうした変化を見落としてしまう可能性があります。

値上げの効果を判断するためには、売上だけでなく、原価や利益がどのように変化したのかまで確認することが重要です。

2.自社の商品・サービスに、いくらかかっているか把握できていますか?

適正価格を考えるうえで、まず確認したいのが原価です。

例えば製造業であれば、製品をつくるために、次のような費用が発生します。

  • 原材料費
  • 製造に関わる人件費
  • 外注費
  • 電気・ガスなどのエネルギー費
  • 設備の維持・修繕費
  • 工場や倉庫などの維持費
  • 物流費やその他の経費

こうした費用を整理し、製品やサービスごとに、どの程度のコストがかかっているのかを把握することが重要です。

ただし、原価の計算方法は業種や事業の形態によって異なります。

製造業なら製品ごとの材料費や加工時間、小売業なら仕入価格や販売にかかる費用、サービス業なら提供時間や人件費などが重要な要素になります。

また、すべての経費を単純に商品ごとに割り振ればよいわけでもありません。共通して発生する費用については、合理的な方法で配分する必要があります。

最初から完璧な原価計算を目指す必要はありません。

まずは、何にどれだけ費用がかかっているのかを見えるようにすることから始めてみましょう。

2025年版中小企業白書でも、商品・サービスの原価構成や利益を把握している企業では、価格転嫁が進んでいる傾向が示されています。原価を把握することは、価格交渉だけでなく、経営判断の土台にもなります。

3.「売上が大きい仕事」と「利益が残る仕事」は違う

次に考えたいのが、商品・顧客ごとの採算です。

例えば、次のような2つの仕事があったとします。

<Aの仕事>

売上:100万円
材料費・外注費:60万円
差額:40万円

<Bの仕事>

売上:60万円
材料費・外注費:25万円
差額:35万円

この例では、売上の大きいAの仕事の方が、材料費や外注費などを差し引いた金額は大きくなっています。

しかし、ここで注意したいのが、まだ人件費や設備費など、ほかの費用を考慮していないことです。

仮にAの仕事には多くの作業時間が必要で、Bの仕事は短時間で対応できるとしたら、最終的に残る利益は逆転するかもしれません。

もちろん、作業時間だけで仕事の価値を判断できるわけではありません。品質、納期、取引の継続性、将来の受注なども含めて考える必要があります。

それでも、売上高だけで仕事の良し悪しを判断するのは危険です。

「どれだけ売れたか」だけでなく、「どれだけのコストがかかり、どれだけ利益が残ったか」まで見る。

この視点が、適正価格を考えるうえで欠かせません。

4.値上げするだけでなく、価格の決め方を見直す

原価を把握し、利益が残りにくい仕事が分かってきたら、次は価格の決め方を見直します。

例えば、次のような方法が考えられます。

① コストの変化を価格に反映する

原材料費や労務費、物流費などの上昇を定期的に確認し、価格を見直す必要がないか検討します。

一度値上げしたからといって、その価格が将来も適切とは限りません。

② 商品・サービスごとに価格を考える

すべての商品を一律に値上げするのではなく、原価や作業負担、顧客に提供する価値などを踏まえて検討します。

利益率の低い商品については、価格の見直しだけでなく、仕様や提供方法を変えることも選択肢になります。

③ 付加価値を高める

価格を上げるためには、コストの上昇を説明するだけでなく、顧客が感じる価値を高めることも重要です。

例えば、品質の安定、短納期への対応、専門的な技術、アフターサポートなど、自社ならではの強みを整理します。

価格だけで比較される状態から抜け出せれば、価格設定の選択肢も広がる可能性があります。

2026年版中小企業白書でも、コスト上昇分の価格転嫁に加え、製品・サービスの差別化による適切な価格設定が、付加価値額の増加に寄与する取り組みとして紹介されています。

5.「値上げできない」場合は、仕事の進め方も見直す

適正価格を考えても、取引先との関係や市場環境によって、希望する価格への変更が難しい場合もあります。

その場合は、価格交渉だけに頼るのではなく、コストや業務の見直しも必要です。

例えば製造業なら、

  • 段取り替えの回数を減らす
  • 材料や工具を探す時間を短縮する
  • 手作業の一部を設備で自動化する
  • 重複する入力や確認作業を減らす
  • 利益率の低い製品の製造工程を見直す

といった取り組みが考えられます。

ただし、コスト削減を優先するあまり、品質や安全性、顧客満足度を損なってしまっては本末転倒です。

重要なのは、必要な品質や価値を維持しながら、無駄な時間や費用を減らすことです。

価格を見直すことと、仕事の進め方を改善すること。この両方を組み合わせることで、利益を確保するための選択肢が広がります。

6.利益が残る価格を、経営の判断につなげる

ここまで見てきたように、適正価格を考えるためには、原価や利益を把握するだけでなく、その先の経営判断につなげることが重要です。

例えば、価格や原価を見直した結果、

「この製品は利益が残っている」

「この仕事は売上が大きいが、作業負担も大きい」

「設備を更新すれば、製造時間を短縮できる可能性がある」

「人件費の上昇を考えると、現在の価格を見直す必要がある」

といったことが分かるかもしれません。

こうした情報があれば、価格交渉だけでなく、設備投資や人員配置、受注方針なども検討しやすくなります。

そして、適切な利益を確保できれば、賃上げや人材育成、設備投資など、将来への投資に振り向ける余地も生まれます。

ただし、価格転嫁や値上げだけで、必ず利益が増えるわけではありません。販売数量の変化や追加コスト、顧客の反応なども含めて、実行後の状況を確認することが大切です。

価格を決めることは、単なる営業上の判断ではなく、会社の利益や将来の投資を左右する経営判断でもあります。

7.適正価格を考えるために、確認したい5つのこと

自社の価格を見直す際には、次の5点を確認してみましょう。

01|商品・サービスごとの原価を把握できているか

材料費や労務費、外注費、設備維持費などを整理できているか。

02|値上げ後の利益を確認しているか

販売価格だけでなく、原価や利益がどのように変化したかを確認しているか。

03|商品・顧客ごとの採算を把握しているか

売上高だけで判断せず、作業時間やコストも含めて比較できているか。

04|自社ならではの価値を説明できるか

品質、技術、納期、対応力など、価格以外の強みを整理できているか。

05|価格と業務改善を一緒に考えているか

価格交渉だけでなく、工程や設備、業務の進め方を見直す余地がないか。

すべてを一度に整える必要はありません。まずは利益が気になる商品や取引から、少しずつ確認していくことが現実的です。

■ 値上げをゴールにせず、利益が残る仕組みをつくる

原材料費や人件費が上がる中、価格転嫁は中小企業にとって重要な課題です。

しかし、値上げできたかどうかだけを見ていては、会社の収益構造が改善したかどうかまでは分かりません。

自社の商品やサービスにどれだけのコストがかかっているのか。

どの仕事で利益が残り、どの仕事に改善の余地があるのか。

そして、確保した利益を賃上げや設備投資など、将来の成長にどうつなげていくのか。

こうしたことを一つずつ整理することが、持続的に利益を確保できる会社づくりにつながります。

クレッシェンドアソシエイツでは、価格や原価だけを切り離して考えるのではなく、財務状況、事業計画、設備投資、企業不動産なども含めて会社全体を整理し、経営判断につながる選択肢を一緒に検討します。

「値上げしたのに利益が増えない」

「どの商品・仕事を優先すべきか分からない」

「今の価格で、将来も事業を続けていけるのか不安」

そんな課題があれば、まずは自社の原価と利益を整理するところから始めてみませんか。

値上げをゴールにせず、利益が残る仕組みをつくる。

それが、これからの中小企業経営に求められる視点の一つです。

飯塚甲生 <26年の実績 × 中小企業診断士の専門知識>

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